股関節内の軟骨がすり減ることで骨と骨が直接接触するようになり、炎症や痛み、変形が生じる疾患です。特に原因がなく老化によって起こる一次性と原因のある二次性がありますが、日本では二次性、なかでも臼蓋形成不全に起因することが多いです。ほかにも関節リウマチ、大腿骨頭壊死症、大腿骨頚部骨折などから続発することもあります。
変形性股関節症は前期・初期・進行期・末期に分けられ、関節軟骨が消失した末期が人工股関節置換術の適応となります。もちろん患者さんの症状や生活様式から総合的に判断しますが、末期まで進行していない場合は、薬によって痛みをコントロールし、股関節周囲筋力アップのなどの運動療法を行います。
手術方法について
私が医師となった20年以上前は後方からアプローチ(侵入法)が主流でしたが、今はAL-Sと呼ばれる仰臥位による前外側アプローチを採用しています。
後方アプローチは、股関節の後ろにある短外旋筋群(たんがいせんきんぐん)を切離する必要があります。短外旋筋群は小さい筋肉ですがとても大切です。下肢を外旋させると同時に一定以上の内旋を制動する(抑える)筋肉で、人工股関節後に起こる後方への脱臼を防いでくれるのです。脱臼は股関節を屈曲し内旋すると骨同士やインプラント同士、骨とインプラントが当たり、そこがテコとなり発生します。AL-Sでは短外旋筋群を温存できます。短外旋筋群が温存されていれば、内旋を制動することができるため脱臼のリスクが大幅に低減され、術後に生活動作制限する必要がほとんどありません。以前なら正坐はダメ、自転車もダメ、浴槽をまたぐ時はガニ股で、靴もガニ股履きなさいとかいろいろ指導していたのですが、いまではほぼありません。筋肉を切らないので術後の回復も早く、階段昇降が安定すれば、1週間から2週間程度で退院することも可能です。
ただし、術前の変形があまりに強いとか、骨頭が高位脱臼(こういだっきゅう)してしまっている場合、また股関節のk拘縮(こうしゅく)が高度な場合は、短外旋筋群の一部を切離したり、後方アプローチで対処したりすることになります。
現在の人工股関節は摺動面(しゅうどうめん)の飛躍的な進歩により30年以上の耐久性が期待されています。またお伝えしたように手術法の改良により、術後の生活動作を制限されず多くの方が快適な日常生活を過ごしています。股関節の痛みでお困りの方は運動療法、人工股関節置換術ともに気軽にご相談ください。
ごうだ整形外科 院長 佐々木拓郎