K-001 膝のどこが痛い?|痛む場所から考える原因
【前編】膝の前・内側・外側の痛み|整形外科医はどこを見ている?
監修
合田 猛俊
佐々木 拓郎
清藤 直樹
「膝が痛い」といっても、痛む場所は患者さんによって違います。
お皿の前が痛い人もいれば、膝の内側、外側、裏側が痛い人もいます。また、「どこが痛いのか自分でもよく分からない」と膝全体を指す方もいます。
痛む場所は診断の大切な手がかりですが、「ここが痛いから、この病気」と場所だけで診断できるわけではありません。
ごうだ整形外科では、膝の診察をするとき、いきなり痛い場所だけを触るのではなく、歩き方、問診、膝全体の視診、膝蓋骨(お皿)、関節水腫、曲げ伸ばし、圧痛の場所、不安定性などを順番に確認します。
前編では、実際の診察の流れと、膝の前・内側・外側が痛むときに何を考えるのかを解説します。
1.膝の診察は「診察室に入ってくるとき」から始まっています
ごうだ整形外科では、膝の患者さんは診察前に看護師が問診を行い、必要に応じて先にレントゲン検査を行っていることがあります。
しかし、医師の診察はベッドに横になってから始まるわけではありません。
患者さんが診察室へ入ってくるときの歩き方、どちらかの足をかばっていないか、左右どちらかに体重を偏らせていないか、膝を伸ばしたまま歩いていないかなども確認します。
そのうえで事前問診を確認し、足りない情報を追加で質問します。
「いつから痛いのか」「転んだり、ひねったりしていないか」「どんな動作で痛いのか」「安静にしていても痛いのか」など、症状が出る状況を丁寧に確認します。
こうした問診と実際の診察を組み合わせて、原因を絞り込んでいきます。
2.最初に見るのは「痛い場所」ではなく膝全体です
患者さんには膝が見える状態でベッドに横になってもらい、まず膝全体を見ます。
確認するのは、腫れ、発赤、内出血、明らかな変形、左右差などです。
外傷後に大きく腫れている場合と、以前から徐々に変形してきた膝では、考える病態が違います。
また、赤く腫れて熱を持っている場合には、変形性膝関節症だけでなく、結晶誘発性関節炎や感染なども鑑別に入ります。
膝の診察では、触る前の視診だけでも多くの情報が得られます。
3.次に膝蓋骨(お皿)と関節の水を確認します
視診の次に、まず膝蓋骨、いわゆる「お皿」を触ります。
膝を伸ばした状態で膝蓋骨周囲を触り、痛みがないか、動きに問題がないかを確認します。同時に、関節に水がたまっていないかも調べます。
膝関節に水がたまっている状態を関節水腫といいます。
関節水腫は、変形性膝関節症、半月板損傷、外傷、炎症性疾患など、さまざまな原因で起こります。
水がたまっているかどうかだけで病名は決まりませんが、関節内で何らかの炎症や刺激が起こっている重要な手がかりになります。
4.膝を曲げ伸ばしして「動きの制限」がないかを見る
次に、膝を曲げたり伸ばしたりして可動域を確認します。
特に重要なのが、膝が最後まで伸びるか、どこまで曲がるかです。
関節の腫れ、変形、半月板の問題、関節包の硬さなどによって、膝の動きが制限されることがあります。
患者さん自身は「曲げると痛い」と感じていても、診察してみると伸ばす動きにも制限があることがあります。
そのため、痛む場所だけではなく、膝全体の動きを確認してから圧痛部位を詳しく調べていきます。
5.膝のお皿周囲が痛い|膝蓋大腿関節の問題
膝の前側の痛みでまず考えるものの一つが、膝蓋大腿関節です。
膝蓋大腿関節とは、膝蓋骨と大腿骨が接する部分です。
この部分に由来する痛みでは、膝を深く曲げる、しゃがむ、階段を上り下りする、長く座るなど、膝を曲げた状態で膝蓋大腿関節に負荷がかかる動作で症状が出やすくなります。
診察では、膝蓋骨周囲の圧痛や動き、実際に痛みが再現される動作などを確認します。
膝蓋骨を押したときの痛みだけで診断を決めるのではなく、症状が出る動作や他の所見も合わせて判断することが大切です。
6.膝蓋腱が痛い|立ち上がりや階段で痛むことがあります
膝蓋骨の下には膝蓋腱があります。
膝蓋腱は、大腿四頭筋から続く膝を伸ばすための重要な組織です。
そのため、しゃがんで立ち上がる、階段を上る、ジャンプする、走るなど、膝を伸ばす力を繰り返し使う動作で痛みが出ることがあります。
膝前面の痛みでも、膝蓋大腿関節が痛いのか、膝蓋腱が痛いのかで考える病態は異なります。
数センチ痛む場所が違うだけでも、疑う組織は変わります。
7.膝蓋下脂肪体が関係する前方痛もあります
膝蓋骨の下には膝蓋下脂肪体という組織があります。
この脂肪体が炎症を起こしたり、膝の動きの中で刺激を受けたりすると、膝前面の痛みの原因になることがあります。
特に膝を伸ばしたときなどに前方へ痛みが出る場合には、脂肪体周囲の関与も鑑別に入ります。
前側が痛いからといって、すべてが骨や軟骨の問題とは限りません。
8.子どもの膝前面痛ではオスグッド病も考えます
成長期の子どもで、膝のお皿より少し下にある脛骨粗面が痛む場合には、オスグッド病を考えます。
オスグッド病では、脛骨粗面の圧痛や突出がみられ、走る、跳ぶ、しゃがむなどの運動で痛みが出ることがあります。
主に成長期のスポーツをしている子どもにみられますが、大人になっても脛骨粗面の突出が残っている方では、膝をついたときに痛みが出ることがあります。
また、脛骨粗面周囲には皮膚の知覚を担う細い神経も走っているため、硬い場所に繰り返し膝をつくなどして局所が刺激されると、ビリビリした痛みや感覚の違和感を訴えることもあります。
9.膝の前が腫れている|滑液包炎のこともあります
膝の前面には滑液包と呼ばれる組織があります。
滑液包は、皮膚・骨・腱などの間で摩擦を減らす役割をしています。
膝蓋骨の前にある滑液包などに炎症が起こると、局所的な腫れと痛みが出ることがあります。
仕事や生活の中で硬い床に繰り返し膝をついていないか、打撲がなかったかなども重要な問診項目です。
10.膝の内側が痛い|まず内側関節裂隙を確認します
膝の内側が痛い患者さんは多くいます。
まず確認するのが内側関節裂隙です。
関節裂隙を押して圧痛がある場合には、内側半月板損傷や変形性膝関節症など、関節内の問題を考えます。
半月板損傷が疑われる場合には、McMurrayテスト(マクマレーテスト)などの徒手検査も行います。
ただし、McMurrayテストが陽性だからといって、それだけで半月板損傷と診断できるわけではありません。
11.半月板損傷は一つの検査だけでは決めません
中高年の変形性膝関節症では、半月板そのものにも変性が起きていることがあります。
つまり、変形性膝関節症と半月板の変性・断裂が同時に存在することがあります。
そのため診断では、年齢、症状の始まり方、外傷歴、圧痛の位置、徒手検査、レントゲンでの変形の程度などを総合して判断します。
学術的にも、関節裂隙の圧痛、McMurrayテスト、Thessalyテストなどは、単独ではなく組み合わせて評価することが推奨されています。
一つの検査だけで病名を決めないことが大切です。
12.内側側副靱帯損傷では「ひねった・転んだ」という情報が重要です
膝の内側でも、大腿骨側に痛みがある場合には、内側側副靱帯(MCL)の損傷を考えます。
特に重要なのが外傷歴です。
スポーツ中に膝をひねった、相手と接触した、転倒した、膝の外側から力が加わった、といった経緯があれば、内側側副靱帯損傷を疑います。
診察では圧痛だけでなく、外反ストレスなどを加えて内側方向の不安定性がないかも確認します。
13.関節より少し下の内側が痛い|鵞足部の痛み
内側関節裂隙より少し下、脛骨内側に圧痛がある場合には、鵞足部の炎症を考えます。
鵞足部には複数の腱が集まっており、立ったり座ったりを繰り返す、階段昇降が多い、スクワットを繰り返すなどの負荷で痛みが出ることがあります。
患者さんは「膝の内側が痛い」と表現しますが、実際に触診すると、関節裂隙そのものではなく少し下方に圧痛があることが診断の手がかりになります。
14.内側痛で忘れてはいけない「膝の軟骨下脆弱性骨折」
中高年の膝内側痛で、もう一つ忘れてはいけないのが膝の軟骨下脆弱性骨折(SIFK)です。
これは明らかな大きな外傷がなくても、関節面のすぐ下の骨に損傷が起こる病態です。
初期には単純レントゲンで明らかな異常が分からないことがあり、急に強い痛みが出た高齢者などでは、必要に応じてMRIで確認することがあります。
「レントゲンで大きな異常がないから骨には問題がない」とは、必ずしも言い切れません。
急に強い内側痛が出た、体重をかけると強く痛む、経過が通常の変形性膝関節症らしくない、といった場合には骨損傷も鑑別します。
15.膝の外側が痛い|関節裂隙では半月板や変形を考えます
膝の外側痛では、まず痛みが外側関節裂隙そのものにあるのか、それより上や下に広がっているのかを確認します。
外側関節裂隙に圧痛がある場合には、外側半月板損傷や外側関節面の変形性変化などを考えます。
また、外反膝などで外側への荷重が増えている患者さんでは、外側の関節に症状が出ることがあります。
内側痛と同じように、圧痛の場所だけでなく、外傷歴、年齢、荷重時痛、レントゲン所見などを合わせて判断します。
16.腸脛靱帯炎では「反復する曲げ伸ばし」と痛む位置が手がかりです
膝の外側痛で重要なものの一つが腸脛靱帯炎です。
腸脛靱帯は大腿外側を走る厚い組織で、ランニングなど膝の曲げ伸ばしを繰り返す運動で痛みが出ることがあります。
典型的には膝外側、とくに大腿骨外側上顆付近に圧痛や運動時痛がみられます。
関節裂隙そのものの一点だけではなく、その少し近位側にかけて外側が痛む場合には、運動歴も含めて腸脛靱帯の関与を考えます。
「最近走る距離を増やしていないか」「坂道を多く走っていないか」「膝の曲げ伸ばしを繰り返す運動が増えていないか」といった情報も重要です。
17.外側側副靱帯損傷や骨折を見逃さない
スポーツや転倒のあとに膝外側が痛む場合には、外側側副靱帯(LCL)の損傷も考えます。
この場合も、圧痛だけではなく、内反ストレスなどを加えて外側の不安定性がないかを確認します。
ただし、外傷後の外側痛をすべて靱帯損傷と考えるのは危険です。
脛骨近位部や脛骨高原などの骨折でも外側痛が出ることがあります。
「靱帯損傷だと思っていたら骨折だった」ということを避けるため、外傷の強さ、荷重できるか、腫れ、圧痛部位、画像所見を総合して評価します。
前編まとめ|痛む場所は重要。でも「場所だけ」で診断しない
膝の診察では、痛む場所は非常に重要な手がかりです。
しかし、同じ「内側が痛い」でも、半月板、変形性膝関節症、内側側副靱帯、鵞足部、軟骨下骨など、原因となる組織は異なります。
同じように前方痛や外側痛でも、年齢、外傷歴、どの動作で痛むか、腫れ、水腫、可動域、不安定性などを組み合わせなければ正確な判断はできません。
ごうだ整形外科では、膝の痛む場所だけに注目するのではなく、患者さんの歩き方や問診から始め、膝全体を見て、触って、動かしながら原因を考えていきます。
後編へ続く
【K-001 後編】膝の裏・膝全体の痛み|膝以外が原因のこともある
後編では、膝裏の痛み、ベーカー嚢腫、半月板後方の問題、伸展制限と後方関節包のつっぱり、膝全体が痛い場合、腰からのL4・L5・S1神経症状、関節リウマチなど全身性疾患、膝の不安定性、レントゲンとの照合、そして変形性膝関節症を「年齢のせい」で終わらせないごうだ整形外科の考え方について解説します。
医学的確認について
本記事は、合田医師の一般整形外科診療における臨床経験・診察手順を一次情報として構成し、膝専門医としての見解を示すものではありません。診断名、徒手検査、典型症状、画像検査に関する記述は、整形外科・スポーツ医学の標準的な文献・診療ガイドラインと照合して患者さん向けに編集しています。
主な参考文献・学術資料
- American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS). Clinical Practice Guideline for Management of Acute Isolated Meniscal Pathology, 2024.
- AAOS OrthoInfo. Meniscus Tears.
- Willy RW, et al. Patellofemoral Pain: Clinical Practice Guidelines. J Orthop Sports Phys Ther. 2019;49(9):CPG1-CPG95.
- Bunt CW, Jonas CE, Chang JG. Knee Pain in Adults and Adolescents: The Initial Evaluation. Am Fam Physician. 2018;98(9):576-585.
- Ochi J, et al. Subchondral insufficiency fracture of the knee: review of current concepts and radiological differential diagnoses. Jpn J Radiol. 2022.
- AAOS OrthoInfo. Iliotibial Band (IT Band) Syndrome.
監修者プロフィール
合田 猛俊
医療法人社団GOZEN 理事長/整形外科専門医/医学博士
佐々木 拓郎
北7条ごうだ整形外科 院長/産業医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター
清藤 直樹
岩見沢ごうだ整形外科 院長
記事情報
記事番号:K-001
記事名:膝のどこが痛い?|痛む場所から考える原因
掲載区分:前編/膝前面・内側・外側の痛み
シリーズ:ごうだ整形外科の膝痛ナビゲーション
監修:合田 猛俊/佐々木 拓郎/清藤 直樹
公開日:未定
更新日:未定
